薬剤師が身近な疑問を本気で検証する ~第5回 あくびが人にうつるって本当!?あくびってそもそも何?~

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薬剤師 中溝肇(はじめちゃん)

薬剤師であり、フルマラソン愛好家でもあります。 健康と運動、そしてお薬の専門知識を活かし、皆様の健康とパフォーマンス向上をサポートします。 トレーニングや栄養に関するアドバイスも可能です。 お気軽にご相談ください。

 

こんにちは。管理薬剤師のはじめちゃんです。

皆さんは授業中や仕事中にあくびが出てしまったことはないだろうか?

私はある。しかも割と頻繁に。

でも誤解しないで頂きたい。患者さんと真面目な話をしている時、同僚と大事な話をしている時、あくびが出るようなことは無い!・・・はずである。

 

まぁ私の話はさておき、人前であくびが出そうになったとき、皆さんはどうしているだろうか。

口を閉じ、息を止め、なんとかこらえる。会議中や研修中ならなおさらだ。大きく口を開けてあくびをしようものなら、「話がつまらないのかな」と思われかねない。

ところが不思議なことに、自分はあくびを我慢していたはずなのに、隣の人が大きなあくびをした途端、こちらまであくびが出そうになることがある。

さっきまで何ともなかったのに、なぜだろう。

しかも、あくびがうつりやすい人は共感力が高い、という話まであるらしい。

もし本当なら、あくびがうつるだけで人の優しさまでわかることになる。ずいぶん便利な話だが、果たしてそんなに簡単なのだろうか。

 

そもそも、あくびって何なのか

 

あくびといえば、眠いときや退屈なときに出るもの、というイメージが強い。

昔は、あくびをすると脳に酸素を取り込めるからだ、と説明されることもあった。しかし、単純に酸素不足を解消するための行動だという説は、現在では支持されていない。

あくびが何のために起こるのかについては、脳の覚醒状態の調節や体温調節など、さまざまな観点から研究が続いている。まだ完全には解明されていないのだ。

そして、あくびにはもうひとつ不思議な性質がある。

自分が眠くなくても、誰かのあくびを見ただけで、つられてあくびが出ることがあるのだ。あくびの写真を見たり、あくびについて考えたりするだけでも、出そうになる人がいる。

これを「伝染性あくび」という。

あくびそのものの仕組みさえ完全にはわかっていないのに、他人のあくびまでうつる。人間の体は、なかなか面倒くさいつくりになっている。

 

あくびがうつる人は、共感力が高い?

 

ここで気になるのが、あくびと共感力の関係だ。

共感力とは、相手の気持ちや立場を理解しようとする力のこと。相手が悲しんでいたら悲しみを想像し、困っていたら何に困っているのかを考える。人間関係を築くうえで大切な能力である。

そして研究者たちは、あくびがうつる現象にも、こうした他者とのつながりが関係しているのではないかと考えてきた。

実際、動物を対象にした研究でも興味深い結果が報告されている。

2008年に発表された犬の研究では、人間のあくびを見せられた犬の一部に、あくびがうつる現象が確認された。その後の研究では結果が一致しておらず、犬が人間のあくびにつられる仕組みについては、まだ議論が続いている。

オオカミでは、仲間との社会的なつながりと、あくびの伝染との関連を示唆する研究がある。チンパンジーでも、親しい個体のあくびに、より反応しやすい可能性が報告されている。

人間以外の動物にも、他者の行動につられるような現象が見られるのは面白い。

ただし、ここで注意したいのは、あくびがうつることと、相手の気持ちを理解できることは、同じではないという点だ。

あくびがうつる現象と共感力の関係を調べた研究をまとめたレビューでも、両者の関連については一貫した結論が得られていない。

そもそも共感力には、相手の感情を自分も感じること、相手の立場に立って考えること、相手を気遣うことなど、いくつもの側面がある。

あくびがうつりやすいからといって、その人が必ず優しいとは限らない。逆に、あくびがまったくうつらなくても、思いやりのある人はたくさんいる。

あくびは、共感力を測る検査にはならないのだ。

 

人の気持ちは、あくびではわからない

 

薬局でも、似たようなことがある。

たとえば、患者さんから「この薬、飲みたくないんです」と言われたとする。

そのひと言だけで、「この人はコンプライアンス(医師の指示通りに薬を飲むこと)の悪い人だ」と判断するのは簡単だ。

しかし、よく話を聞いてみると、副作用が心配だったり、以前に薬でつらい思いをしたことがあったり、飲む薬が多すぎて負担になっていたりする。

同じ「飲みたくない」という言葉でも、その背景は人によって違う。

言葉や行動だけを見て、相手の気持ちまでわかったつもりになるのは危うい。大切なのは、すぐに決めつけず、どうしてそう感じるのかを知ろうとすることだ。

あくびも同じかもしれない。

誰かのあくびがうつったからといって、その人の心がわかるわけではない。うつらなかったからといって、相手への思いやりが足りないわけでもない。

人の体や心には、まだわかっていないことがたくさんある。

だからこそ、目の前の現象だけで相手を決めつけず、「どうしてだろう」と考えてみる。薬局の仕事にも、少し似たところがある。

当たり前を一度疑ってみると、何気ない日常にも、意外な発見が隠れているものだ。

 

・・・さて、この記事を読んで、あくびが出た方はいらっしゃるだろうか。

共感力が高いのか、眠いだけなのか。それとも、私の文章に問題があったのか。

 

私のあくびについても気になったので、家族に聞いてみた。

「じゃあ、私がいつもあくびをしてるのも、共感力が高いからかな?」

「あなた、毎晩いびきかいてるじゃない。睡眠時無呼吸症候群なんじゃないの?」

……どうやら私のあくびは、共感力とは関係なさそうだ。