薬剤師が身近な疑問を本気で検証する ~第3回 雨が降ると、なぜ頭が痛くなるのか?――その頭痛、本当に「天気」のせいですか?~

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薬剤師 中溝肇(はじめちゃん)

薬剤師であり、フルマラソン愛好家でもあります。 健康と運動、そしてお薬の専門知識を活かし、皆様の健康とパフォーマンス向上をサポートします。 トレーニングや栄養に関するアドバイスも可能です。 お気軽にご相談ください。



こんにちは。管理薬剤師のはじめちゃんです。

最近嫌な天気が続きますね。

秋になると、雨の日が増える。

朝から空はどんよりしている。

洗濯物は乾かない。

出かけるのも少し面倒になる。

 

そして、なぜか頭まで痛い。

「雨の日って、頭痛くなるんだよね」

そんな話を聞いたことはないだろうか。

最近では、こうした頭痛を「天気頭痛」と呼ぶこともある。

たしかに、天候の変化をきっかけに頭痛が起こる人はいる。

特に片頭痛では、天候の変化が発作の誘因の一つになることが知られている。実際、気圧の低下と片頭痛発作との関連を示す研究もある。

では、なぜ雨が降ると頭が痛くなるのだろう。

雨そのものが、頭の中を叩いているわけではない。

ポイントの一つが、気圧の変化である。

 

 

低気圧になると、体の中では何が起こる?

 

天気が崩れるとき、気圧は変化する。

特に低気圧が近づいてくると、気圧が低下する。

私たちの体は、そんな気圧の変化とは無関係に存在しているように思える。

しかし実際には、体の周囲の圧力が変化すれば、それを感じ取る器官がある。

その代表の一つが、耳の奥にある内耳だ。

内耳には、体のバランスを保つための器官がある。

ここが気圧の変化を感知し、その情報が自律神経系などに影響を与える可能性が考えられている。

さらに、気圧変化によって自律神経のバランスや血管、神経系の反応が変化し、それが片頭痛の発生に関わるのではないか、といった説もある。

ただし、

「気圧が下がる→内耳が反応する→自律神経が乱れる→頭痛が起こる」

という一連の流れが、人間で完全に証明されているわけではない。

ここは大切なところだ。

「低気圧だから頭痛が起きる」という現象には一定の科学的な裏付けがある一方で、誰にでも起こるわけではなく、その仕組みも一つに決まっているわけではない。

そもそも、天候と頭痛の関連そのものも、研究によって強さが異なる。

つまり、

低気圧=頭痛

と単純に考えるほど、私たちの頭は単純ではないらしい。

 

「雨」が悪いのか、「変化」が悪いのか

 

ここで、もう一つ面白いことがある。

頭痛を起こす人にとって重要なのは、「雨が降っているか」そのものより、天候が変化していることなのかもしれない。

気圧が変わる。

気温が変わる。

湿度が変わる。

睡眠や生活リズムも変わる。

そうしたいくつもの変化が重なって、頭痛の引き金になる可能性がある。

だから、

「雨の日は必ず頭が痛い」

という人もいれば、

「雨の日でも何ともない」

という人もいる。

同じ東京で、同じ低気圧の下にいても、頭痛が起こる人と起こらない人がいる。

天気は同じでも、頭の中の「天気」は人によって違うのである。

 

 

だから「天気頭痛」という言葉は便利だけれど……

 

ここで薬剤師として、少し気になることがある。

「雨の日に頭が痛いんです」

と言われたとき、

「それは天気頭痛ですね」

と答えてしまっていいのだろうか。

「天気頭痛」という言葉は、患者さんにとって自分の症状を説明しやすい。

しかし、それをそのまま一つの病名のように扱ってしまうと、本来の頭痛のタイプを見逃す可能性がある。

たとえば片頭痛なら、

  • ズキズキする
  • 片側に起こりやすい
  • 吐き気がある
  • 光や音がつらい
  • 動くと悪化する

といった特徴がある。

こうした症状を持っているなら、

「雨の日だから頭が痛い」

だけではなく、

「片頭痛があり、その誘因の一つが天候の変化なのではないか」

と考えたほうが、その人の頭痛を正しく理解しやすい。

つまり、

「雨で頭が痛くなる」ことと、「天気頭痛という病気がある」ことは同じではない。

ここは、薬剤師として覚えておきたいところだ。

 

 

そして、もう一つ聞きたいことがある

 

さらに薬局で聞いておきたいのが、

「その頭痛に、何の薬を使っていますか?」

という質問だ。

「頭が痛いので、市販の鎮痛薬を飲んでいます」

ここまでは珍しい話ではない。

問題は、その次だ。

「月に何日くらい飲みますか?」

この質問をすると、話が変わってくることがある。

「えーっと……週に3日くらいですかね」

「じゃあ、月に10日以上になることもありますか?」

「……たぶん、それくらい飲んでます」

ここで薬剤師は、少し考える。

もしかすると、この人は「天気頭痛」だけの問題ではないかもしれない。

 

 

頭痛薬を飲んでいるのに、頭痛が増える?

 

それが、

薬剤の使用過多による頭痛――MOH(Medication-Overuse Headache)

である。

以前は「薬物乱用頭痛」と呼ばれていたが、現在は「薬剤の使用過多による頭痛」という表現が使われている。これは「乱用」という言葉が、患者さんの意図的な不適切使用を連想させることなどにも配慮したものだ。

MOHのやっかいなところは、

本人が「薬を使いすぎている」と思っていないことが多い

ということだ。

頭が痛い。

だから薬を飲む。

当然である。

ところが、

頭痛が増える。

↓

薬を飲む日が増える。

↓

一時的に楽になる。

 

また頭痛がする。

↓

また薬を飲む。

ということを繰り返しているうちに、頭痛そのものが高頻度になっていくことがある。

つまり、

頭痛を治すために飲んでいた薬が、いつの間にか頭痛の悪循環の一部になってしまう。

これがMOHの怖さである。

 

 

「何錠飲んだか」より「何日飲んだか」

 

MOHを考えるとき、薬剤師が注目したいのが「使用日数」だ。

国際頭痛分類では、基本的に月15日以上の頭痛があり、3か月を超えて頭痛治療薬を過剰使用していることが診断の軸になる。

そして、その「過剰使用」の基準は薬によって異なる。

トリプタン、オピオイド、エルゴタミン、複合鎮痛薬などでは、月10日以上。

アセトアミノフェンやNSAIDsなどの非オピオイド鎮痛薬では、月15日以上が一つの目安になる。

つまり、

「1回に何錠飲んだか」だけではなく、「1か月に何日使ったか」が重要なのである。

薬局で、

「頭痛薬はどのくらい飲みますか?」

と聞く。

すると、

「1回1錠ですよ」

と答えられることがある。

もちろん、それも大事な情報だ。

でも、薬剤師が本当に知りたいのは、

「月に何日くらい飲みますか?」

である。

1回1錠でも、月に2日なら話は違う。

月に20日なら、話はまったく違う。

だから頭痛薬については、

「何錠?」と「何日?」はセットで聞く。

これだけでも、薬局で拾える情報はかなり変わってくる。

 

 

「薬が効かなくなった」は、薬が弱くなったのか?

 

もう一つ、薬局でよく聞く言葉がある。

「最近、頭痛薬が効かなくなってきたんです」

もちろん、頭痛そのものが変化した可能性もある。

しかし、

「効かないから、もっと強い薬を」

と考える前に、

「薬を飲む日が増えていないか?」

と考えることも大切だ。

頭痛が増える。

↓

薬を飲む。

↓

また頭痛が起こる。

↓

さらに薬を飲む。

この悪循環の中にMOHが隠れている可能性があるからだ。

もちろん、薬が効かない人がすべてMOHというわけではない。

だからこそ、頭痛の日数と薬の使用日数を一緒に確認する。

必要なら医療機関で頭痛のタイプを評価してもらう。

そして、もともと片頭痛などがある場合には、その治療自体を見直していく。

MOHは単純に「薬をやめれば終わり」という話ではない。

 

薬剤師は、天気を変えられない

 

薬剤師は、天気を変えられない。

低気圧を追い払うこともできないし、雨を止めることもできない。

だから、「雨の日は頭が痛いんです」と相談されたとき、天気そのものをどうにかすることはできない。

でも、ひとつできることがある。

一緒に、その頭痛を振り返ってみることだ。

「雨の日だけですか?」

「頭痛は、月に何日くらいありますか?」

「そのとき、薬は何日くらい飲んでいますか?」

こう聞かれると、患者さん自身が「あれ?」と思うことがある。

「そういえば、雨の日だけじゃないかもしれない」

「最近、頭痛が増えている気がする」

「薬も、前より飲むようになったかもしれない」

そこに気づくことが、意外と大切なのだと思う。

薬剤師が、

「あなたはMOHです」

と決めつける必要はない。

むしろ、

「一度、頭痛と薬を使った日を数えてみませんか?」

と伝える。

頭痛があった日。

薬を飲んだ日。

それをカレンダーに記録してみる。

すると、これまで「なんとなく雨の日に頭が痛い」と思っていたものが、少し違って見えてくるかもしれない。

雨の日と頭痛の日は、本当に重なっているのか。

頭痛は月に何日あるのか。

薬は月に何日使っているのか。

そして、薬を飲む日が増えるにつれて、頭痛も増えていないか。

答えを薬剤師が出すのではなく、患者さん自身が気づく。

その気づきが、

「一度、病院で相談してみようかな」

とか、

「薬の使い方を見直してみようかな」

という次の一歩につながれば、それは薬剤師にとって大きな意味がある。

雨は、薬剤師には止められない。

でも、

「雨のせいだと思っていた頭痛、本当にそうなのかな?」

と、一緒に立ち止まって考えることはできる。

天気は変えられなくても、

自分の頭痛との付き合い方を変えるきっかけは、つくれるかもしれない。