これから「薬」はどう変わる? 薬価制度・ジェネリック医薬品・OTC類似薬と「薬の安定供給」を考える

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薬剤師 中溝肇(はじめちゃん)

薬剤師であり、フルマラソン愛好家でもあります。 健康と運動、そしてお薬の専門知識を活かし、皆様の健康とパフォーマンス向上をサポートします。 トレーニングや栄養に関するアドバイスも可能です。 お気軽にご相談ください。

 

「いつもの薬が薬局にない」「ジェネリック医薬品が別のメーカーに変わった」「薬の自己負担が以前と違う気がする」――最近、このような経験をされた方も多いのではないでしょうか。

日本では、誰もが必要な医療を受けられるよう「国民皆保険制度」が整えられています。
一方で、高齢化や医療技術の進歩などにより医療費は増加し、医薬品をめぐっても、
価格を抑えることと、必要な薬を安定して供給することをどう両立するかが大きな課題になっています。

 

実際、20268月時点で薬価基準に収載されている医薬品は約13,000品目にのぼります。
その一つひとつについて、患者さんの負担、医療保険財政、製造・流通コスト、そして新薬開発への投資を考える必要があります。

 

今回は、薬価制度、ジェネリック医薬品、OTC類似薬、そして「ドラッグ・ロス」と呼ばれる問題について、薬局の現場から患者さんに知っていただきたいポイントを分かりやすく解説します。

 

ジェネリック医薬品は、すでに「医療の中心」になっています

 

ジェネリック医薬品(後発医薬品)は、先発医薬品の特許期間などが終了した後に、同じ有効成分を使って製造される医薬品です。

一般的に先発医薬品より薬価が安く、患者さんの自己負担や医療保険全体の費用を抑える役割を担っています。

現在、日本ではジェネリック医薬品の使用がかなり進んでいます。

厚生労働省によると、**20259月時点のジェネリック医薬品の数量シェアは88.8**です。

つまり、処方される医薬品の10個のうち、およそ9個がジェネリック医薬品という計算になります。

国は今後もジェネリック医薬品の使用を進め、2029年度末までに、すべての都道府県で数量シェア80%以上、金額シェア65%以上を目標としています。

しかし、ここで大きな問題となっているのが「安定供給」です。

 

「安い薬」が作り続けられなくなる?

 

近年、ジェネリック医薬品を中心に出荷停止や出荷調整が続いています。

その背景には、一つの原因だけではなく、製造上の問題、品質管理、原材料の調達、生産設備、人手不足、物流費や光熱費の上昇など、さまざまな要因があります。

さらに重要なのが、薬の価格と製造コストのバランスです。

薬価が低く抑えられている一方で、原材料費、人件費、電気代、輸送費などが上昇すれば、企業にとって「必要な薬だけれど、採算を取りながら作り続けることが難しい」という状況が起こります。

その結果、メーカーが出荷量を制限したり、供給を停止したりすることがあります。

これは「ジェネリック医薬品だから品質が悪い」という話ではありません。

むしろ、安価な医薬品を長期間にわたって安定供給するためには、それを製造する企業が継続して生産できる環境が必要なのです。

そのため2026年度の薬価制度改革では、最低薬価の引き上げや、不採算となっている医薬品を支える「不採算品再算定」など、安定供給を支えるための仕組みも盛り込まれています。

 

薬局では、薬不足にどう対応している?

 

患者さんから見ると、「薬局に行ったのに薬がない」という状況は非常に不安なものです。

しかし、薬局側も何もせずに待っているわけではありません。

医薬品の供給不足が起きた場合、薬局では複数の医薬品卸に在庫や入荷予定を確認したり、同じ成分の別メーカー製品を探したりしながら、できるだけ治療が途切れないよう対応しています。

場合によっては、医師や医療機関に相談して、別の医薬品への変更を検討することもあります。

また、限られた医薬品を必要な患者さんに届けるため、必要以上に在庫を抱え込まないよう注意することもあります。

患者さんには見えにくい部分ですが、薬局では日々、**「今日処方された薬をどうすれば患者さんに届けられるか」**という対応が行われています。

 

OTC類似薬の自己負担も変わろうとしています

 

もう一つ、患者さんにとって身近な変化が「OTC類似薬」の見直しです。

OTC医薬品とは、薬局やドラッグストアなどで購入できる市販薬のことです。

OTC類似薬とは、その市販薬と成分や効能が近い医療用医薬品を指します。

現在、こうした薬の一部について、健康保険から完全に外すのではなく、保険給付を残しながら患者さんに「特別の料金」を求める仕組みが進められています。

現在示されている仕組みでは、まず77成分、約1,100品目を対象とし、薬剤費の4分の1に相当する特別の料金を設定する方向です。

実施時期は20273が想定されています。

一方で、子ども、がん患者、難病患者などの慢性疾患を抱える方、低所得者、入院患者、医師が長期使用を医療上必要と判断する方などについては、配慮することが検討されています。

今後は、OTC類似薬の対象範囲をさらに広げることも検討されています。

つまり、これからは「薬はすべて同じように健康保険で負担する」という考え方から、医療上の必要性に応じて、保険で支える薬と患者さん自身の負担を組み合わせる方向へ変化していく可能性があります。

 

先発医薬品を選ぶ場合の負担も変わっています

 

20266月からは、ジェネリック医薬品がある先発医薬品(長期収載品)を患者さんが希望して選択する場合、「特別の料金」がかかる仕組みも変わりました。

例えば、先発医薬品が1100円、ジェネリック医薬品が60円の場合、価格差は40円です。

20266月以降は、この価格差の2分の1にあたる20が、通常の患者負担とは別に「特別の料金」としてかかる仕組みです。

もちろん、医学的な理由などによって先発医薬品が必要と判断される場合は、この仕組みの対象外となることがあります。

こうした制度の背景には、ジェネリック医薬品を選択できる場合には、その使用を促し、医療保険制度を持続可能なものにしていくという考え方があります。

 

 

「薬を安くする」だけでは解決できない、もう一つの問題

 

ここまで読むと、「薬の価格を下げることは良いことなのでは?」と思われるかもしれません。

もちろん、患者さんの負担や保険料を抑えることは大切です。

しかし、薬の価格を下げることだけを進めれば、別の問題が生じる可能性があります。

それが「ドラッグ・ロス」です。

新しい薬の開発には、長い年月と多額の研究開発費が必要です。

日本で新薬を販売しても、価格や市場規模などの面から十分な採算が見込めない場合、企業が日本での開発や販売を後回しにする可能性があります。

また、米国では医薬品価格を他の先進国の価格水準に近づけようとする「最恵国待遇(MFN)」政策も進められています。日本の薬価が米国の価格設定に影響する可能性もあり、今後の日本への新薬導入にどのような影響が出るのか注目されています。

実際、厚生労働省が2026年に公表した調査では、欧米では承認されているものの、日本では国内開発に着手されていない医薬品が28品目確認されました。

そのうち、5品目は「開発の必要性が特に高い」もの、1品目は「開発の必要性が高い」ものと整理され、合計6品目について今後、医療上の必要性が評価されることになっています。

つまり日本では、

「昔から使われている薬は、安すぎて作り続けにくい」

一方で、

「新しく必要な薬は、日本で販売されにくくなる可能性がある」

という、両側からの課題が生じる可能性があります。

これは、これからの日本の医療を考えるうえで非常に重要な問題です。

 

 

患者さん一人ひとりにできること

 

こうした問題は、国や製薬会社だけで解決できるものではありません。

患者さん一人ひとりのちょっとした意識も、医薬品の安定供給を支えることにつながります。

1.薬がないときは、自己判断で中止せず薬剤師に相談する

「薬がないなら飲まなくてもいい」と自己判断するのは避けましょう。

薬局では、別メーカーの同じ成分の薬、入荷予定、代替できる医薬品などを確認しています。

まずは薬剤師に相談してください。

2.薬のメーカーが変わっても、分からないことは確認する

供給不足によって、同じ成分でもメーカーが変更になる場合があります。

薬の名前や錠剤の色・形が変わると不安になることもありますが、医師・薬剤師が内容を確認したうえで変更しています。

気になることは遠慮なく聞いてください。

3.残っている薬は薬局に伝える

自宅に薬がたくさん残っている場合は、薬局に相談しましょう。

残薬を整理することで、不要な薬を新たに受け取ることを避けられ、薬剤費の無駄を減らすことにもつながります。

4.必要以上に薬をため込まない

供給不足が心配だからといって、必要以上に薬を確保しようとすると、限られた医薬品がさらに不足する可能性があります。

必要な量を適切に受け取ることも、安定供給を支える大切な行動です。

5.お薬手帳を活用する

お薬手帳は、単に薬の名前を記録するだけのものではありません。

複数の医療機関を受診している場合の重複や飲み合わせの確認、メーカー変更の記録、過去に使用した薬の確認などにも役立ちます。

薬局を利用するときは、ぜひお薬手帳をお持ちください。

 

これからの薬局に求められる役割

 

今後の薬局は、単に「処方箋を受け取って薬を渡す場所」ではなく、医薬品を安定して患者さんへ届けるための地域の窓口として、さらに重要な役割を担うことになるでしょう。

医薬品の在庫や供給状況を確認し、必要に応じて医療機関と連携する。

薬が変更になった理由を患者さんに説明する。

制度が変わったときには、患者さんの負担がどう変わるのかを分かりやすく伝える。

そして、薬が不足しているときにも、患者さんの治療ができるだけ途切れない方法を一緒に考える。

こうした役割を果たすことが、地域の薬局に求められています。

 

 

「安い薬」ではなく「続けられる医療」を

 

これからの日本の医療では、「薬をできるだけ安くする」という考え方だけではなく、「必要な薬を将来にわたって安定して届けられる仕組みをどう作るか」という視点が、ますます重要になります。

ジェネリック医薬品を適切に活用することも大切です。

一方で、必要な医薬品が採算の問題で供給できなくならないよう、製造・流通を支える仕組みも必要です。

さらに、新しい治療薬については、患者さんにとってどれだけ価値のある薬なのかを適切に評価し、日本でも必要な治療を受けられる環境を維持する必要があります。

薬価制度、OTC類似薬、ジェネリック医薬品、ドラッグ・ロス――一見すると別々の問題に見えますが、その根底には共通した課題があります。

それは、

「限られた医療資源をどのように使いながら、必要な医療を将来にわたって維持していくか」

という問題です。

患者さんにとって大切なのは、薬が「安いこと」だけではありません。

必要な薬を、必要な人に、必要なときに届けられること。

そのためには、国や製薬会社、医療機関、薬局だけでなく、患者さん一人ひとりの理解と協力も欠かせません。

私たち薬局も、医薬品の供給状況や制度の変化を正しく把握し、医師や医薬品卸などと連携しながら、患者さんが安心して治療を続けられるよう努めてまいります。

「薬がない」「薬が変わった」「負担が増えた」――そんなときこそ、まず薬剤師にご相談ください。

これからも地域の皆さまと一緒に、「必要な薬を、必要な人へ届け続けられる医療」を考えていきたいと思います。