

もう夏バテは終わった、と思っていませんか。実はここからが要注意です。
冷たい飲み物やアイス、冷房でよく冷えた部屋——
夏の間に体にじわじわ溜め込んだダメージは、涼しくなり始めるこれからの時期になって
「なんとなく不調」というかたちで表に出てきます。
今回は、漢方でいう「脾(ひ)」の働きと、腸内環境・消化酵素という分子栄養学の視点から、
この時期の胃腸ケアについてお話しします。
「脾」は湿気が大の苦手
漢方でいう「脾」は、西洋医学の脾臓とは少し違い、
胃腸を中心とした消化吸収のシステム全体を指す言葉です。
食べたものからエネルギー(気)や栄養(血)を作り出す、いわば体の変換工場のような存在です。
この脾には昔から「脾は湿を悪(にく)む(脾悪湿)」という考え方があります。
湿気にとても弱いということです。ところが夏はどうでしょうか。
冷たい飲食物、汗をかいた分の水分補給、冷房による冷えと湿気——
脾にとっては一年でいちばん過酷な季節なのです。
しかも冷えは胃腸の働き自体を鈍らせるため、「冷たいもの+湿気」のダブルパンチで、
脾は静かに疲弊していきます。
そして厄介なことに、脾はダメージを受けてもすぐには症状を出しません。
夏の間はなんとか踏ん張っていても、気温が下がり自律神経が切り替わる8月末〜9月になって、
食欲不振、軟便や下痢、むくみ、体の重だるさといった形で一気に表面化してくるのです。
「夏バテは治ったのに、なぜか調子が悪い」という声の裏には、
こうした脾の疲れが隠れていることが少なくありません。
腸内環境と消化酵素からみても納得の話
冷たいものを摂り続けると、消化酵素の働きは体温より低い温度で著しく低下します。
消化酵素はタンパク質でできており、至適温度からずれるほど分解効率が落ちるためです。
消化しきれなかった食べ物のかすは腸内で悪玉菌のエサとなり、腸内環境のバランスを崩します。
さらに冷えは腸のぜん動運動にも影響し、便通の乱れやガスによる膨満感を招きます。
加えて、消化吸収がうまくいかないと、鉄・亜鉛・ビタミンB群といった栄養素の吸収効率も落ち、
疲れやすさや気力の低下にもつながっていきます。
「胃腸の不調」は単なる消化の問題ではなく、全身のコンディションに関わる話なのです。
脾を立て直す、今日からの食養生
難しく考える必要はありません。
ポイントは「温める」「消化にやさしくする」「湿を溜めない」の3つです。
☆生姜(しょうが)
脾胃を温める代表格。すりおろして味噌汁やスープに加えるだけで、
体の芯からぽかぽかと消化力を後押ししてくれます。
加熱することで辛味成分ジンゲロールがショウガオールに変化し、
温め作用がより高まるのも覚えておきたいポイントです。
☆山芋(やまいも)
漢方薬にも使われる「山薬(さんやく)」という生薬そのもの。
脾の働きを補い、消化吸収力を底上げしてくれる食材です。
すりおろしてとろろにすれば、胃腸への負担も少なく取り入れやすいでしょう。
☆はと麦
余分な湿気を排出する「利水」の働きで知られる食材です。
むくみやすい、体が重だるいと感じる方には特におすすめ。
お茶として日常的に取り入れるのが手軽です。
このほかにも、かぼちゃ・にんじん・かぶといった根菜や、
発酵食品(味噌、納豆、ぬか漬けなど)で消化酵素そのものを補うのも効果的です。
逆に、冷たい飲み物や生野菜・生の果物のとりすぎは、この時期はできるだけ控えめに。
氷入りの飲み物を常温や白湯に変えるだけでも、脾への負担はかなり軽くなります。
おわりに
夏の疲れは、夏が終わったからといって自動的にリセットされるわけではありません。
むしろ「涼しくなってからが本番」と考えて、これからの数週間、
少し意識して胃腸をいたわってあげてください。
生姜、山芋、はと麦——どれも特別な食材ではなく、
いつもの食卓に無理なく取り入れられるものばかりです。
小さな工夫の積み重ねが、秋を元気に迎えるための土台になります。