在宅こぼれ話 ~第1話~

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薬剤師 微熱

在宅業務担当しています。音楽と自然が大好きです。好きなことには熱中するタイプで、最近ピアノを始めました。健診でコレステロール高めと指摘されるお年頃ですが自転車で毎日駆け回っております。人生の最期を迎えるその時に、「いい人生だった」と言えるように過ごしたいと思っています。

在宅こぼれ話(第1話)

私をご機嫌にしてくれるTさん

 

 

こんにちは!陽気が温かくなり、外に出ると色とりどりのお花が咲いていて嬉しくなりますね。今日は私が今でも心の支えにしているTさんとのお話をご紹介したいと思います。

在宅業務を始めたばかりの頃、私は毎日が手探りでした。慣れない環境や患者さんとの距離感、自分が良いと思ってやっていることが本当に相手に伝わっているのだろうかと毎日不安でした。

そんな時に出会ったのがTさんでした。80代の女性で、毎日新聞の天声人語をノートに書き写すのが日課でした。薬の飲み忘れはありましたがどこか愛嬌があって、穏やかな笑顔が印象的でした。

ある日のこと。訪問していつものようにお薬をセットすると、Tさんが私の顔をマジマジと眺め、指さしながらこう言ったのです

「あんたはいい顔をしているねえ。鼻筋がピーンととおってる」

突然のことで一瞬固まってしまったことを覚えています。今まで誰にもそんな風に言ってもらったことはありませんし、実母からはずっと「あんたの鼻は鍋蓋みたい」と冷やかされてきたものですから(笑)。その時はきっと私に気を遣って下さっているのだろうと思い「ありがとうございます」と言ってそのまま帰りました。Tさんは訪問する度にいつも私のことを誉めて下さいました。嬉しいやら恥ずかしいやら、最初は照れていた私も、誉められて嫌な気はせず、次第にTさん宅に訪問することが楽しみになってきていました。訪問の仕事に対しても少しずつ自信を持てるようになり、たとえうまくいかないことがあっても、Tさんが誉めてくれるとその日はとても幸せな気持ちで過ごせました。

今でもうまくいかないことがあると、Tさんの言葉を思い出します。辛くて悲しくて泣きたくなる日もあるけれど、鏡に映る自分の姿を見ながら「私、いい顔してるな」って自分を奮い立たせて、笑顔で仕事に向かうのです。

出会った人の数だけ物語がある。だから訪問業務は面白いし止められないのかもしれません。